聖書は英語圏の文化と深い繋がりがあり教養として広く浸透しています。英米文学・映画・音楽などでは聖書の言葉がよく引用されています。そのため英語を理解することは異文化を理解することに繋がり、前回ご紹介したシェイクスピアや聖書のことを知っておく必要があります。聖書は文字に書かれた言語でしたが、長い歴史からすると読まれるよりもそれぞれの民族のさまざまな言葉で物語として語られ、絵画として眺められ、彫刻として触れられることを通して人々の心に浸透していきました。
英語圏の文化・教養―旧約聖書
旧約聖書は人類最古の文明の発祥地チグリス・ユーフラテス川を原郷としています。
・旧約聖書は39巻から成る文書で、作者も年代も不明な伝承文学
・紀元前7世紀前半~紀元後1世紀末にユダヤ教の正典として確立し、キリスト教やイスラム教が信仰として継承
・旧約聖書は神話・歴史として成立しているが『ヨブ記』は文学としてみなされている。
・旧約聖書の文書について
39巻から成る旧約聖書を重要な物語だけ抜粋してまとめました。ヨブの信仰や試練を描いたヨブ記は含めていません。キリスト教のほかに、ユダヤ教やイスラム教の正典でもある。
1.創世記 | 天地創造、人類の堕落 (アダムとイヴ、カイン、ノア)
*エデンの園、蛇の誘惑、楽園追放、ノアの箱舟、バベルの塔 |
族長物語(アブラハム、イサク、ヤコブ、ヨセフ)
*アブラハム(ノアの長子)の旅が物語の始まりとなる。 |
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2.出エジプト記 | 神の約束の地をめざして―契約と律法(モーセと十戒)
*イスラエル先祖の神ヤハウェ、神の声、奇跡の杖 |
3.ヨシュア記 | 戦う人ヨシュア―ヨシュア(モーセの従者)
*神の約束の地カナンへ |
4.サムエル記・列王記 | イスラエル建国物語(サウルと羊飼いダヴィデ、ソロモン)
*イスラエル王国の誕生(ユダ族の王)、ソロモン王の栄華と知恵、神殿 |
5.三大預言書・哀歌 | 王国の崩壊と預言者たちの活躍(南王国ユダと北王国イスラエル)
*三大預言書(イザヤ書、エレミア書、エゼキエル書)、哀歌(ダニエル書) |
・イスラエル王国の分裂・崩壊について
ソロモン王は神との契約や掟を守らなかったため、イスラエル王国に災いをもたらしたとされています。ソロモン王の死後、イスラエル統一国家は北王国と南王国に分裂します。
→紀元前922年、ソロモン王朝に不満を抱いていた北方の部族たちが一斉に反旗を翻してサマリアを首都とし(北王国イスラエル)、南王国ユダに対して独立を宣言します。
・王国の運命と預言者たちの活躍
イスラエルの運命は裏切りと陰謀が横行し、権力者たちの悲惨さと狂気が渦巻いていました。預言者たちは神ヤハウェとイスラエルの契約を目まぐるしく変転する歴史の中で注視し、契約を破り掟を無視する者を告発して弾劾し、呪うのが使命であった。
→イスラエルに対する神の審判、破滅のドラマ
・三大預言書について
預言者たちの中でも三大預言書と呼ばれるものが特に有名です。
・イザヤ書(神の国の幻を見る)
・エレミア書(エルサレム【イスラエル】滅亡の預言者)
・エゼキエル書(奇行の預言者)
*『ダニエル書』は世界の終末に関する預言書の1つであるが、黙示文学的作品
捕因の身となったユダヤの青年ダニエルについての伝承と幻の記憶です。
・第二イザヤの預言
紀元前560年ごろ活躍した預言者で、イスラエルの救い主(ナザレのイエス)について予見・透視したと言われています。『悲しみのメシア』
→イスラエルの失われた栄光を取り戻し、苦難の民を救うメシアの物語は新約聖書に受け継がれています。
マタイ福音書5章4節
英語圏の文化・教養―新約聖書
天地創造からイスラエル民族の興亡、悲しみのメシアの預言までの物語が旧約聖書です。新約聖書は第二イザヤの預言の続きになります。イスラエルの救い主イエスが誕生し、イエスの生涯とその教えを伝えるもので、神の国運動と福音書(物語文学)で成り立っています。
イエスの神の国運動 VS パリサイ派(ユダヤ教の一派)
・新約聖書の文書について
新約聖書はイエス・キリストの弟子たちによって書かれた27の文書から成るキリスト教の正典となっていて、福音の部と使徒の部に分かれています。(キリスト教のみの正典)
1.天使の告知 | マリアへの天使(聖霊)の告知
*ルカ1章26-38節、天使ガブリエルがマリアの受胎を告げる。 |
2. イエスの誕生 | 東方の3賢人
*マタイ2章1-12節(イエス誕生の贈り物:黄金、乳香、没薬) |
3.バプテスマ(洗礼者)ヨハネの登場 | イエスの洗礼と聖なる霊(奇跡を起こす人になる)
*荒野の誘惑(自己に潜む欲望、悪魔との戦い) |
4. 神の国運動の開始・展開 | 群衆に教えを説く、敵対者との論争
*『時は満ちた、神の国は近づいた。悔い改めて福音を信ぜよ』マルコ1章14節 |
5. 遍歴のカリスマ | 遍歴の旅、治癒と超能力
*水がめの水をぶどう酒にした(天からの賜り物、カリスマ) |
6. 受難物語 | 最後の晩餐(ユダの裏切りを告知)
*パン(イエスのからだ)、ぶどう酒(多くの人のために流すイエスの契約の血) |
7.復活の証人 | 二人の天使が3日目にイエスの復活を告げる
*墓に安置していたイエスの遺体が消えていた。 |
イエスの最後のことば:
メシアは苦しみを受け、三日目に死者のうちから復活し、その名によって罪のゆるしを得させる悔い改めがエルサレムから始まり、すべての民に宣べ伝えられる。
→弟子たちの前に姿をあらわしたイエスは彼らを祝福し、昇天した。
・福音と使徒
新約聖書は27の文書から成るキリスト教の正典で以下のように分類されています。
・福音の部
マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネの福音書(神の国運動について書かれた物語)
・使徒の部
使徒行伝(使徒の布教記録)
パウロ書簡(使徒の手紙)
公同書簡(特定の教会に送られた手紙)
ヨハネの黙示録(この世に対する神の審判)
・イエスの死後
イエスの死後、ペテロを頭とする12使徒たちと熱心な支持者たちの命がけの働きかけによりイエスの教えをユダヤ全土、ギリシア・ローマの地中海世界に広めた。
ローマ帝国では激しく弾圧を受けたが、313年ローマ皇帝コンスタンチヌスの「ミラノ勅令」によってキリスト教がローマ帝国の国教として承認されました。
英語圏の文化・教養―聖書にまつわる雑学
旧約聖書や新約聖書、外典にはさまざまな天使があらわれますが、とくに以下の天使が有名です。天使(聖霊)は森羅万象を動かす不思議な力で、聖書や伝承に登場する神の使いとみなされている。
・3大天使について
・ミカエル(天使世界、全天使のリーダー)ダニエル書、ヨハネの黙示録、エノク書など
・ガブリエル(預言と啓示、神のメッセンジャー)ダニエル書、聖母マリアに受胎告知など
・ラファエル(治療と癒やし、旅人の守護者)エノク書、トビト記など
ユダヤ教では外典、プロテスタントでは文学として扱われている文書
トビトの失明を救い、義理の娘サラに憑いていた悪魔を追い出した天使ラファエルの話
正典・外典に含まれないユダヤ教・キリスト教の文書で「天界、地獄、最後の審判、ノアの箱舟の大洪水」などの預言について書かれている。
エノクが天に運ばれたとき天地創造の秘密を明かされる。そのときに彼と天使たちとの会話に使用された言語をエノク語と呼ばれるようになった。
・モーセの十戒と奇跡の杖
強制労働を強いられていたエジプトから脱出をはかるモーセたち(イスラエルびと)の話で、シナイの聖なる山で神ヤハウェの声を聞いたとされている。そのときに手にしていたのが奇跡の杖。
→地に投げると蛇になる杖で、その尾をつかむと杖に戻る
イスラエルの民をエジプトの地から導き出し救ってくれた神との契約で、守るべき10の戒律。契約を守るなら神の聖なる民とし、土地を与えると約束した。
神から授けられた律法と戒めを書きしるした石の板を収めた箱。モーセによって契約の箱の中に収められた。
ソロモン王の時代には、ソロモンの神殿の至聖所(ケルビムの間)に安置されていた。
まとめ
聖書(旧約)はユダヤ教、キリスト教、イスラム教の正典とされています。新約聖書はキリスト教のみの正典で欧米などキリスト教の国で広く浸透しているため、聖書は英語を理解する上で必須の知識です。英語圏などの異文化を理解したり一般教養として知っておきたいですね。