エミリー・ブロンテ作の嵐が丘は、イングランド・ヨークシャーのハワースを舞台にした長編小説です。ハワースに広がる荒野の侘しさと荒々しさが物語に反映されています。1847年に出版されたエミリー・ブロンテ生涯唯一の小説は、当初は作家に対する評価が低かったのですが、作風の力強さや独創性が認められ現在では英米文学の三大悲劇の一つとされています。今回は嵐が丘のあらすじと観光スポットにもなっているハワースをご紹介します。
嵐が丘 あらすじと登場人物
イギリスの女流作家エミリー・ブロンテ(1818-1848年)は、姉のシャーロットや妹のアンとともにブロンテ三姉妹の一人として知られています。1820年にブロンテ一家はハワースに移り住みました。本作の嵐が丘はハワースが舞台で、異様な作風から英米文学の三大悲劇の一つなどと評されています。物語はアーンショウ家とリントン家の親子三代に渡って繰り広げられる悲劇で、語り手ロックウッドが嵐が丘を訪れます。
嵐が丘 簡単なあらすじ
青年ロックウッドは人里離れたスラッシュクロスと呼ばれる屋敷を借りて移り住み、挨拶のため嵐が丘の隣人ヒースクリフを訪れる。ヒースクリフのほかに美しいが生気のないキャサリン・リントン(キャシー)と召使いのようなヘアトンが一緒に住んでおり三人は冷え切った関係だった。
その晩、ロックウッドは嵐が丘に宿泊しキャサリン・アーンショウの日記を見つける。夜中、ロックウッドが物音に目を覚ますと少女の幽霊を目撃する。ロックウッドは叫び声を上げて仰天し、怒り狂って駆け込んできたヒースクリスは泣き崩れる。翌日、ロックウッドが家政婦に嵐が丘のことを尋ねると、アーンショウ家とリントン家の愛憎劇を知ることになる。
アーンショウ家とヒースクリフ
以前、嵐が丘には地主のアーンショウ氏とその夫人、そして子供のヒンドリーとキャサリンが住んでいた。ある日、アーンショウ氏はリバプールで見かけた身寄りのない少年を不憫に思って連れ帰った。その男の子をヒースクリフと名付け実子たちと一緒に可愛がっていた。しかし、父の愛情を奪われたヒンドリーはヒースクリフのことを快く思わず暴力を振るうようになり、寄宿学校に送られてしまう。キャサリンは次第に打ち解けていき一緒に遊ぶようになった。
ヒンドリーとキャサリン(兄妹)
数年後、アーンショウ夫妻が亡くなると嵐が丘は息子のヒンドリーが受け継いだ。ヒースクリフはヒンドリーから差別され下僕のような酷い扱いを受け、スラッシュクロスのリントン家からも粗末に扱われる。その一方、相応しい身分の美少女キャサリンはリントン家から歓迎され、ヒースクリフとは微妙な関係になる。ヒースクリフはヒンドリーに恨みを募らせていく。
アーンショウ家とリントン家(結婚と出産)
アーンショウ家のヒンドリーはフランセスと結婚し、彼女は息子のヘアトン(アーンショウ)を出産するが亡くなる。ヒンドリーの妹キャサリンはヒースクリフのことを案じていたが、リントン家の息子エドガーと結婚し、キャサリンも出産後になくなる。娘は母と同じ名前のキャサリン・リントン(キャシー)と名付けた。キャシーは母に似て美しく優しい少女。
ヒースクリフの復讐劇
リントン家に復讐するためヒースクリフに騙されて結婚したエドガーの妹イザベラ(復讐①)は、彼から暴力を振るわれていたためロンドンへ逃げ、そこでヒースクリフの息子リントン(アーンショウ)を出産する。
やがてヒンドリーが亡くなり、嵐が丘の屋敷が借金によってヒースクリフの手に渡る。すると、ヒースクリフは本来ならば嵐が丘の後継者であるヘアトンに対して復讐を行う。自分がヒンドリーから差別されたようにヘアトンに対して酷い扱いをし、品性を欠いた無教養の人間に仕立て上げた。(復讐②)
キャシーは父エドガーから愛情を一身に受けて大事に育てられた。イザベラが亡くなると、エドガーは彼女の息子リントンを引き取って一緒に育てるが、リントンは病弱でエドガーも先が長くなかった。ヒースクリフは自分の息子でありエドガーの甥でもあるリントンをキャシーと結婚させようと企む。エドガーの死後、キャシーと結婚したリントンはスラッシュクロスを手に入れ、ヒースクリフの手に渡った。(復讐③)ヒースクリフはキャシーからリントンを引き離して嵐が丘へ連れ去り、リントンはやがて亡くなる。
ヘアトンとキャシー(従兄)
キャシーは嵐が丘のヘアトンが、リントンを助け出してくれなかったことを恨んでいた。また、お嬢様育ちのキャシーは読み書きのできないヘアトンを馬鹿にして二人の関係は険悪だった。その頃、スラッシュクロスは売りに出されてロックウッドが賃貸したが、期待通りの生活にならなかったためロンドンへ去った。
様変わりした嵐が丘
ロックウッドが再び嵐が丘を訪れると、キャシーとヘアトンは仲睦まじい関係になっていた。また、ヒースクリフは当時キャシーとヘアトンに対しても復讐心を燃やしていたが、母キャサリンによく似たキャシー、叔母にあたるキャサリンの面影のあるヘアトンに対して意欲を失い、やがて生きる気力も無くして3カ月前に亡くなったと家政婦から教わる。それ以来、嵐が丘にはヒースクリフとキャサリンの亡霊がさまようようになったという。話を聞き終えたロックウッドは屋敷の外へ出ると、ヒースクリフ、キャサリン、エドガーの墓があり、彼らに思いを馳せて物語は終わる。
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嵐が丘 主な登場人物
人間関係が複雑なため、以下に分かりやすく簡潔にまとめました。登場人物の詳細はあらすじに盛り込んであります。
嵐が丘:アーンショウ家
アーンショウ氏+夫人 → 息子 ヒンドリー・アーンショウ(+ フランシスと結婚)→ 息子 ヘアトン → 娘 キャサリン・アーンショウ(+ エドガーと結婚) → 娘 キャシー
スラッシュクロス:リントン家 リントン氏+夫人 → 息子 エドガー・リントン(+ キャサリンと結婚) → 娘 イザベラ・リントン(+ ヒースクリフと結婚)→ 息子リントン
*ヒースクリフは、アーンショウ氏に拾われた
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嵐が丘 ハワース&観光スポット
エミリー・ブロンテの嵐が丘の舞台となったハワースは、今や人気観光スポットになっています。ハワースはイングランド・ヨークシャーの荒野が広がる場所。ここは過酷で厳しい土地と評され、荒々しい物語の展開と情景が眼前に広がっています。
当時のハワースでの暮らしは衛生状態が悪く、平均寿命も25歳でした。シャーロットやエミリーたちの姉二人は寄宿学校で結核に罹患し亡くなりました。残された子供たちは自宅で教育を受けながら文学の道を志し、小説を執筆しました。
ハワースとブロンテ三姉妹
ブロンテ一家が移り済んだハワースの町には、ブロンテ三姉妹(シャーロット、エミリー、アン)が住んでいた家をはじめ、数々のゆかりの地が残っています。ハワースは嵐が丘の舞台となり、荒野(ムーア)や吹きすさぶ風が小説の世界観を映し出しています。
ジェーン・エアは1847年シャーロット・ブロンテによって出版された自伝的長編小説です。作品の中に登場する人物や出来事は実際の話がモデルになっています。執筆した当時はイギリス・ヴィクトリア朝時代で、社会的弱者や女性、道徳、財産、自由恋愛などを[…]
ブロンテ三姉妹
シャーロット・ブロンテ (1816-1855年)代表作『ジェーン・エア』 エミリー・ブロンテ(1818-1848年)代表作『嵐が丘』 アン・ブロンテ(1820-1849年)代表作『ワイルドフェル・ホールの住人』 |
ハワースの通りにはブロンテ博物館の看板
ブロンテ・パーソネージ博物館
1820年~1861年までブロンテ一家が住んでいた住居で、現在はブロンテ博物館になっています。ブロンテ姉妹の父パトリックは牧師で、現在ブロンテ協会本部のある牧師館に着任しました。ブロンテ博物館は姉妹に敬意を表してブロンテ協会によって運営されています。彼女たちは人生のほとんどを教会の牧師館で過ごし、ここで有名な小説を書いていました。
ジョージ王朝様式の建物の内部は、一家が当時住んでいたように家具や衣装、三姉妹の遺品や遺稿などのコレクションが展示されています。
住所:Church Street, Haworth, Keighley, West Yorkshire BD22 8DR
行き方:近隣の主要鉄道駅はリーズで、最寄り駅キーリーから車で20分。
The nearest train stations are Keighley (20 min drive) and Hebden Bridge (25 min drive). The nearest bus stop is North Street West Lane (5 min walk).
オフィシャルサイト
ハワース・パリッシュ・チャーチ
ブロンテ姉妹の父パトリックが説教していたブロンテ一家ゆかりの教会 (St Michael & All Angels Church)です。ブロンテ博物館の近くにある小さな教会で、ここはブロンテ一家と深い結びつきがあり、礼拝堂にはブロンテ一家にまつわる資料や一家が埋葬されたことを記した石版があります。教会近くの地下納骨堂にはスカーブラに埋葬されたアン以外のブロンテ一族が眠っています。
住所:Main Street, Haworth, Keighley BD22 8DP
行き方:ブロンテ博物館のすぐ近く
オフィシャルサイト
https://www.haworthchurch.co.uk/
日曜学校(オールド・スクール・ルーム)
かつてブロンテ姉妹が強靱をとった学校で、現在はコミュニティーホールとなっている。
ハワースのメインストリートはかなりの急勾配になっている。ハワース郊外には荒野が広がり、小さな村にはパブやショップなどが連なって観光客で賑わっていました。
まとめ
イングランド・ヨークシャーのハワースを舞台にした嵐が丘のあらすじと観光スポットを紹介しました。物語は複雑なため、なるべく分かりやすい解説を心がけました。世界的にも有名なブロンテ姉妹のゆかりの地は観光にもおすすめです。ハワースに広がる広大な荒野は幼いブロンテ姉妹の遊び場でもありました。ここでの体験が小説にも色濃く反映されています。